呉氏開門八極拳(孟村八極拳)

呉氏開門八極拳は、中国河北省滄州市孟村に住む回族によって発祥した伝統武術であり、創始者である呉鐘(1712–1802)から現代に至るまで、その教えが受け継がれています。

この拳法は、「剛猛爆烈」「剛柔相済」を特徴とし、接近戦での短打を主体とした技術体系を持っています。剛の中に柔、柔の中に剛が融合された独特の身体の使い方を通して、相手に近づき一撃で倒すことを目的とした武術です。

呉氏開門八極拳の套路(型)は、「小架」「単打」「四朗寛」の三位一体によって構成されています。まず基礎となる小架を習得し、そこから単打による縦の変化、さらに四朗寛による横の変化へと修練を進めていきます。この三つの套路を習得して初めて、「八極拳を学んだ」と言われるほど重要視されています。

また、武器(槍・刀・剣・棍・他)を用いた器械套路や、呉鐘の娘・呉栄が嫁ぎ先から持ち帰った伝統拳(飛虎拳・黒虎拳・華拳・太祖拳・桃花散・太宗拳)、さらには歴代伝承者が少林拳、太極拳、劈掛拳などを研究し、八極拳の理論に基づいて再構成した套路も存在します。これらの套路は、それぞれの素質や体格に応じて老師が選定し、弟子に伝承されてきました。

これらの伝統と体系は、現在では嫡伝第七世・呉連枝老師によって正統に受け継がれています。

歴史

1712年
(康煕51年)
呉鐘(字:弘声、1712年 - 1802年)は孟村鎮に生まれ、15歳より武術を始める。
1727年
(雍正5年)
一人の南方の云游高人「癩」と出会い、その武術の優れた技に感銘を受けて習う。3年間の修行を経て、雍正8年にその「癩」は立ち去った。
1732年
(雍正10年)
「癖」と称する者が呉鐘を訪れ、拳術と武器術で試合を行い、敗れる。「癖」は「癩」の弟子であり、拳術と大槍の奥義(極意)を呉鐘に伝授した。
1735年
(雍正13年)
8月、浙江少林寺を訪れ、その実力を示す歌があるように、「神槍呉鐘は天下無双、拳術、擒拿は康大力、提柳刀、単刀は李章、武林三傑の名は天下に轟く。」と、天下にその名を轟かせた。
1736年
(乾隆元年)
康煕皇帝の14皇子は、武技を競うために燕京に呉鐘を招き、槍で試合を行った。呉鐘の神槍に敬服し、師と仰ぐようになる。この出来事により、神槍呉鐘の名は天下に広まり、生徒も150人余りとなった。
1776年
(乾隆40年)
呉鐘は故郷に帰り、道場を設けた。そして、後世に武術を伝えるために「呉氏開門八極拳」を創立した。
1802年
(嘉慶7年)
10月15日、享年90歳でこの世を去る。

系譜(拳譜・家譜)

⚫︎呉氏開門八極拳系譜

《拳譜》

(一世) 癩(南方雲遊高人)

(二世)癖(癩の弟子)ー  呉鐘(1712~1802)

(三世)呉鐘毓(呉氏前院)ー呉濚(族侄呉氏後院)ー呉栄(長女)

(四世)呉梅ー王長錫ー張克明ー李大中ー呉凱(1845~?)

(五世)呉世科ー曹井田ー黄四海ー張景星ー李貴章ー呉麟書  呉会清(1869~1958)

(六世)馬英図ー強瑞清ー李書文ー張玉衡ー李万成ー呉秀峰(1907~1976)

(七世)蒋浩泉ー何福生ー強毓章ー霍殿閣ー李樹森ー呉連枝(1947~)

(八世)呉大偉ー服部哲也ー周佐英徳ー渡邉博文ー石田泰之ー王正

(九世)呉昊

⚫︎八極拳の分流
中央国術館系、馬系、強系、長春系、羅疃系  その他

⚫︎家譜
《孟村呉家》
(一世)   呉作栄 
(五世)   呉賓賢    漢族→回族
(十三世)呉濚 
(十七世)呉会清
(十八世)呉秀峰 
(十九世)呉連枝
(二十世)呉大偉
(二十一世)呉昊

伝承(套路・理論・変化)

⚫︎呉鐘(伝)
徒手套路
老架子(小架二路)/単打(八極拳)/対打/四朗寛/四朗提/行劈拳/六肘頭/六大開拳。
武器套路
提柳刀/六合大槍/六合洪槍/春秋大刀/行者棒など。

⚫︎娘呉栄(伝)
徒手套路
飛虎拳/黒虎拳/華拳/太祖拳/桃花散/太宗拳など。

⚫︎呉会清(伝)套路(変化)
徒手套路
八極老小架(一、二路、三路)八極小虎抱/飛虎拳/黒虎拳/劈掛門より劈掛拳(抹面拳)
武器套路
九宮純陽剣/六合刀/四門刀/双刀/行鈎/刀進槍三節棍進槍/棍対槍/剣対剣 /八棍頭対/双刀/帯進槍など。

⚫︎呉秀峰(伝)套路
徒手套路
A      少林拳・太極拳・劈掛拳~羅漢拳(功)/青龍剣/劈掛拳(抹面拳)/四封四閉/八棍頭/短棍八路/など。
B 連手拳/開拳など。
C 桃花散を変化させて扶手一路~四路を作る。
D 八極老小架を理論に基づき、一路~十二路に増やす。
E 行劈拳二路~四路に増やす。
武器套路
短棍(乞丐棍)/五十四棍
理論
六字訣/六不輸/十大勁別/六十四手論など。

⚫︎呉連枝老師
内功法の整理と研究/その他整理 
八極拳内功五法/その他(海外普及や書籍出版など)

※ このように、伝承とともに継承者による研究や工夫が行われ、現在では呉連枝老師(呉氏開門八極拳嫡伝七世)によって受け継がれている。

《参考文献》
河北省孟村鎮呉氏八極拳術秘訣之譜』(五世 呉会清著)
「呉氏開門八極拳」ベースボール・マガジン社 呉 連枝:著者/七堂 利幸:編者
「続・呉氏開門八極拳」ベースボール・マガジン社 呉 連枝:著者/七堂 利幸:編者

技法

⚫︎基本功と套路

【站桩功】
五大歩形(馬歩、弓歩、四六歩、独立歩~仆歩、盤歩)
1.両儀馬歩站桩功
2.弓歩
3.四六歩
4.独立歩〜仆歩
5.盤歩

【単操手】
上歩撑掌、上歩撑拳、向捶、降龍式、搓提、炮提、
伏虎式、斜胯、抽別子、圏抱~窩里炮、盤打、攉打頂肘
穿抱(抱肘)提胯合練単陽打、猴提(勾楼纏)、大折江
黒虎提、托槍式、白馬翻提、鷂子穿林、虎抱

【套路】( 徒手)
老架子・老小架(一路・二路・三路)
八極小架(一路・二路・三路・四路・五路・六路)
八極拳単打
四郎寛・四朗提
六大開拳・連手拳・太宗拳・飛虎拳・黒虎拳・飛虎拳・華拳・太祖拳
劈掛拳(抹面拳)・行劈拳(一路~十二路)

【套路】(器械)
六合花槍・六合大槍・行者棒・提柳刀・九宮純陽剣・短棍(八棍頭=乞馬棍)・春秋大刀・六合洪槍・六合刀・四門刀・双刀・行鈎・三節棍・帯進槍

【対錬套路】(徒手)
老小架対錬・八極拳対打・六肘頭・扶手一路〜四路
桃花散

【対錬套路】(器械)
劈杆子・刀進槍三節棍進槍・棍対槍・剣対剣 ・八棍頭対双刀

【各種練功法】
揉手、掃手、 揉腿、三靠臂、貼山靠、胸靠

【各種用法】
応用変化・擒拿・八極推手・八極散手

理論

⚫︎理論

【両儀歌】
頭頂藍天  頭頂天(陽)
脚踏清泉  足踏地(陰)
懐抱嬰児  
両肘頂山

✳︎ 意味:頭頂は天に向け、足は清泉を踏み、嬰児を胸に抱くように、両肘で山を支える。
(虚霊頂頸、立身中正、沈肩墜肘、含胸抜背)

【八大部位】
頭 肩 肘 手 胯 膝 足 尾(臀部)

✳︎ 四肢や八節を緩め、肘や膝で軌道を作り、胯や肩甲を使って力を伝える。

【発力・力的源(内的)】
始於閭尾、発於項梗、源泉於腰、力於足根 (四肢八節)

【震脚の原理(外的)】  
跺 た (沈身して入り、踏みつける、沈力、沈墜力)
蹍 でん(踏ん張る、旋転力、回転力)
闯 ちん(一気に飛び込む、加速度、突進力)

✳︎体幹の力の種類
沈力 弾力 十字力 抖力の一致(沈む力   弾ける力  天地左右の力  震わす力)

【六大開】
外的意識:六大開は理論であり、身体が用いる六つの力の方向性を示したもので、絶招や絶技ではありません。各技法の動作を行う際、単体の力を使うのではなく、この六つの力を含んだ動作にすることが求められます。その動作における特徴として、力の方向が技法を構成するのが、六大開拳です。

頂(十字勁 身体より外に向かう力)
抱(求心勁 身体より内に向かう力)
単(鞭のようにしなやかで方向が一定でない力)
提(外に向かって斜め上方の力)
胯(反作用力 膀胯・腰胯  身体・体幹を回す力)
纒(螺旋力 螺旋状に纏いつく力)

・六力合一(六大開を理解して技法の中で瞬間に合わせる)

✳︎ ただし、六大開は力の方向性を示しているものの、これらの力を体幹から発動させる原理が存在し、それを理解し、体現することは非常に難しい。

【行気】
哼(フン)・哈(ハッ)
行気の意識(一瞬的呼吸停止。天突・壇中・丹田の意識、雷声の如く、内外の力を一致)

攻撃、防御は、息をに吸い、接触時に意を沈め、息を少し吐き呼吸を一瞬止めて行気(哼)(哈)。

✳︎身体の内側から膨張させて放鬆する意識をする。

神妙八極拳
有招有式皆是假,无招无式才是真,无形是我门中宝,阴阳变化奥妙深”。

「招あり式あり全て偽あり、無招あり式こそ真なり、無形はわが門の中の宝なり、陰陽の変化は奥妙なり」

※ 八極拳のすべての動作には、「馬歩の変化」「両儀の変化」「内円外綾(円を意識しつつ三角形の頂点を結ぶ)」「三角形から円錐への変化」「縦の変化」「横の変化」などが内包されています。これらの要素から「体幹の四大発力」と「六大開」が生まれ、「六力合一」となって威力を発揮します。そして、技法の変化は球体のように立体的に展開され、技撃として繰り広げられるのです。

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